【日本の水族館と動物園の未来】

水族館プロデューサーの中村元さんと、円山動物園の本田直也さんのトークイベントに参加しました。

わたしは今まで、檻の中にいる動物に対して、少なからず可哀想だなぁという感情を抱くことがありました。

それは無理もない話しで、諸外国に比べて、日本の展示の仕方には数々の課題があることを知りました。

そしてそれらをクリアしていくことを、真剣に考えている人たちがいるんだということ、熱い情熱を感じることができたことがとても嬉しくて。
この貴重な空間で学んだことを微力ながらも発信したいと思い、久しぶりにblogを更新することにしました。
前半は、中村元さんのトークから。
中村さんは「水塊」にこだわり、サンシャイン水族館の「天空のペンギン水槽」をはじめ、全国各地の水族館をプロデュースしてきた方です。

「ここは海だ」と錯覚するような水中世界を上手に表現することで、その抜群の浮遊感が、現代人の疲れを癒してくれるのです。

中村さんは北から南まで、全国125の水族館を総チェックされました。そのときに撮影したお写真の一部が、会場内のスライドで映されました。
どれを見ても、生き物たちの本来あるべき姿が生き生きと、そこに在るのでした。

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こちらの写真は、井の頭公園内にある水生物園の水槽です。
カイツブリが魚を捕らえる様子を、間近で観察できます。

こちらはホッキョクグマ。
雪のない季節は、芝生の上を歩いています。
とても気持ち良さそうです。
アクリル版の向こうで泳ぐアザラシをどうやって仕留めようか、考えているような姿。
そんなホッキョクグマをからかう様に、行ったり来たりするアザラシ。

中村さんにしか撮れない、微笑ましい写真ですね。
こちらは、Suicaのペンギンさんです。

後半は、円山動物園の本田直也さんも登壇しました。

中村元さんにとって、今まで"動物園"はディスリスペクトの対象だったそうなのですが、本田さんと出逢ったことで、そのお人柄を通し考えが変わったそうです。
本田さんは、鷹匠としても活動されています。

野生動物を自然に帰すとき、一度人の手で保護された生き物を、なにも考えずに戻すことはただの「遺棄」であると、真剣な目で仰っていました。

本来の野生的本能や筋力、生きる力を取り戻すまで責任をもてるのは、鷹匠にしかできないことなんだと。
21歳のときにそれに気がつき、当時の上野動物園で鷹匠をされていた師匠宛に、北海道から手紙を書いたそうです。


こちらの写真は、オランウータンの飼育舎をサーモグラフィーで撮影したものです。
上の写真が、過去のもの。
下の写真が、現在です。

たのしい遊具が用意されているのに、オランウータンが一部の場所に留まり移動をしなかった理由が、一目瞭然となりました。
コンクリートの遊具は、とてつもなく熱かったのです。

緑化によって全体が涼しくなり、活動範囲が増えました。

こちらの写真は、本田さんが視察に行った、海外の動物園です。
まるでジャングルのような空間を見事に創り出しています。ここは、屋内なのです。
現地の気候状態が限りなく本物に近いかたちで再現された空間のなかで、動物たちは自由に動きまわっています。

わたしたち人間はというと、専門のガイドさんについて歩き、その生態を学びます。
日本の目指すべき、動物園の在り方だと思います。

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ここで日本は、数ある課題にぶち当たるのです。

まず、海外視察にしても、環境改善にしても、なかなか予算が出ないという現実があるそうです。

そして本来、理想的な空間を創り出すためには、植物や動物の生体についての理解(福祉的視点)が必要であるにもかかわらず、そのような貴重な知識を採用するという発想に乏しいのです。

優秀なコンサルタントの発する、何気ない一言の裏には、何十年という、何にも代え難い経験があるはずで…
でも、そういった目に見えないものに対して、お金を払わない文化なのです。

素晴らしい日本庭園をつくりだす技術もセンスも持っているのに、日本は前例主義の国なので、目指すべき理想を取り入れることができないまま、無意味な箱物を拵えてしまうのです。

緑化は造園業者に一任し、ガーデニングのような仕上がりで済ませてしまいます。
現地には生息していない植物が、正しい湿度管理もなされないまま、平気で植えてあるのです。

これは水族館でも同じことが言えて、本来その地域に生息しないはずの植物が水槽のなかにあったりするのは違うよね、ということになります。

園舎の大規模工事なんて、30年に一度くらいなものなので、貴重なノウハウはなかなか引き継がれずに同じ過ちを繰り返してしまうと。それが日本の特徴なのだそうです。

結果として「植物は死に、動物は耐える」という、見苦しい動物園が出来上がってしまうのでしょう。

中村さんはこのお話を聞いて、「動物は10℃の差でも耐えられてしまうから、対策が遅れているのだろう」と仰っていました。

魚はたった1℃の水温差でも死活問題となってしまうデリケートな生き物だから、水族館はそこに気を遣わないわけには成り立たないぶん、進んでいると。

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こちらの写真も、海外の動物園です。

屋根の素材にETFEフィルムというものが採用されており、生体にとって然るべき環境を整えるのに役立っているのだそうです。
こちらの素材は、日本では「燃えてしまう」との誤認識があり、今までは建築の許可が下りなかったのだそう。

ところが海外の某動物園が火災に遭ったことで、その耐熱性が証明され、近く日本でも許可が下りることになりました。

https://www2.taiyokogyo.co.jp/maku/etfe.html

今後の水族館・動物園に、新しい風が吹く予感がしますね。

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数ある課題に、真摯に取り組もうとしているお二人の熱意。かっこよかったです。

今後、水族館や動物園が「遠くに出かけなくても、自然体験と同等の地球体験ができる教養施設」として更なる進化を遂げていくことが、とても楽しみです。

いっしょに参加した息子。
この日、最年少の観覧者でした。

小学生にはすこし難しい内容だったかもしれませんが、憧れの人に人生初のサインを書いていただけて、満面の笑みを見せてくれました。
リアルな生態展示を通して、多角的視点を持ち、地球を知り、自分自身を深めていってほしい。

ささやかな、母の願いです。

貴重なお話しを聞かせてくださった中村元さん、本田直也さん、関係者の皆さま。
これからも陰ながら、応援しています。
ありがとうございました。

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